きばのないおおかみ

 

 

 

戦争だ。人間たちが戦争している。

その不気味な音が  この森にまで響いてくる。

 

でもおれたちにゃ関係ない  この森で楽しく暮らすんだ  ほいほい    

    動物たちは元気に働きます  ほいほい。 

    

 そこにおおかみがやってきたのです。

「逃げろ  おおかみだ!」

 

みんな飛ぶように逃げ出しました。

そしておおかみをかくれてじっとにらみました。

「おーい  みんな  ぼくを仲間にいれてくれよ  ぼくひとりぼっちなんだ」

「この森から出ていけ」

「出ていけ!!」

おおかみはかなしそうな顔をしました。

「ぼく  わるいことなんか  しないよ」

「うそだ  三匹のこぶたをおそっただろ!!」

「あれはぼくじゃない」

「赤ずきんちゃんのおばあさんを食べただろ!!」

「ぼくじゃない  ぼくじゃない」

「とにかく  出ていけ」

その時  子リスの持っていた胡桃がおちておおかみの足元にころがった。

「ア、   アタチノ クルミ」

「あ、いっちゃだめだ」

みんなは息を飲んだ。

おおかみは胡桃を拾った。

「はい、おとしちゃだめだよ」

「アリガトウ」

ちょこちょちょこ。

 

おおかみはさみしそうにあたりをみまわした。

《また  だめか》

かなしそうに去ろうとした。

 

「ネエ オオカミサン イイ オオカミサン」

子リスの言葉に大人たちは考えた。

「ちょっと待て  今相談するから」

 

「どうする?」

「なにしろおおかみですからね」

「簡単には信用できませんよ」

「あのきばがこわいですから」

「そうか  あのきばさえなければ」

 

「やい  おおかみ  おれたちはそのきばがこわいんだ。きばをとったら仲間にいれてやってもいいぞ」

「ほんとかい  きばがなければ仲間に入れてくれるんだね?」

「ああ  約束する」

おおかみはうれしかった。

やっと仲間にいれてもらえる、ひとりぼっちじゃなくなる。

おおかみは大岩めがけて突進した。

何度も何度も突進した。

ドーン  ドーン 森中をふるわすようにその音は響いた

「とれた!とれた」

おおかみは気絶した 

 

動物たちが近づいてきた。

「死んでるのか?」

「いや  生きてる  気絶している」

「どうする?」

「きばがなくてもおおかみはおおかみだからね」

「そうですよね」

「ヤクソクシタノニ」

「そうはいってもねえ」

「そうです  おおかみですから」

 

その時、だれかが叫んだ。

「たいへんだ!人間だ、人間が鉄砲持ってやってくるぞ!」

「逃げろ」

おおかみも目をさました。

「やい  おおかみ  人間を追っ払え  そうすりゃ  仲間に入れてやるぞ」

「そうだ  仲間だ、仲間だよ」

動物たちは隠れた。

 

おおかみはふらふらと起き上がった。

きばがとれてすごく痛かった。

「どうしょう  ぼくにはもうキバがない」

 

人間がやってきた。

おおかみも岩かげにかくれて人間をみた。

「あ、怪我してる。右足をひきずってる。鉄砲をつえにして歩いてるぞ。あ、目もやられたんだ、包帯してる。兵隊だ。」

 

兵士は ばたっと倒れた。

「かわいそうに」

おおかみは思った。

「でもおっぱらわなきゃ。」

力の限りをつくして吠えた

「ふにぁー」

痛くて声にならなかった。

その時、

「水、水をくれ」

兵士が声を出した

「水?」

兵士は苦しそうにもがいていた。

「水がほしいんだな。ちょっと待ってろよ」

おおかみは水をくみにいこうとするが立ち止まる。

「おっぱらわなきゃ  仲間にいれてもらえない」

かくれている動物たちがおおかみをみている。

「水  頼むだれか水を」

おおかみはたまらなくなって水をくみにいってしまった。

 

「さあ  水だ  のんで」

兵士はいっしょうけんめいのんだ。

「ありがとう  助かった  君はだれ?」

「ぼくは  おおか・・  も、もりの羊だよ、ほら  さわってごらん」

おおかみは兵士に自分の腹をさわらせた。

「羊くんか  ありがとう」

「撃たれたの?」

「ああ、逃げてきた。今ごろ仲間たちはたたかっているだろう」

「戦争はいけないよ  やめてほしい」

すまない  君たちに迷惑をかけてるんだね」

「怪我を直して帰るって約束して」

「約束する」

「名前は?」

「ぼくはジャック」

「家族は?」

「ふるさとでぼくの帰りを待ってるだろう。君の家族は?」

「みんな死んじゃった。鉄砲で撃たれたんだ」

「羊を鉄砲で撃つなんて

「ねえ  ジャックさん  もしもぼくがおおかみだったら  撃つ?」

「君のようなやさしいおおかみなら  撃たないよ」

ゆっくり休むといいよ」

ジャックは眠った

動物たちが集まってきた

「おい  はやくおっぱらえ」

「怪我してるんだよ、怪我が治ったら出ていくって約束してくれた。ぼくが看病して一日もはやく出ていってもらうから」

「何かあったらおまえのせいだぞ」

「仲間にいれてやらないからな」

「わかった」

 

その日からおおかみはいっしょうけんめい看病した。

その姿を動物たちが遠くからみていた。

「リンゴモッテキタヨ」

子リスから受け取ろうとすると  ビクッとする。

「ありがとう、そこにおきな」

「ウン」

りんごを置くとちょこちょこっと去っていった。

 

時が流れて  ジャックは快方にむかっていた。

でも目はよくならなかった。

動物の子供たちはジャックのところにお見舞いにくるようになった。

「もう少しだね  ジャックさん」

「ありがとう  羊君」

「ぼく  水をくんでくるね」

おおかみは水をくみにいった。

子供たちも家に帰った。

 

 

その時  遠くからジャックを呼ぶ声がした。

「あ、あの声はジョン、ジョン!ここだ!」

足音が近づいてきた。

「ジャック!よかった、会えた」

「ジョン  生きていたか」

「目がみえないのか?」

「ああ」

そうか。探したぞ  戦争は終わった、帰ろう」

ジョンはジャックをかかえて立たそうとした。

「待ってくれ  羊に礼をいわなきゃ」

 

その時  大事そうに水をかかえたおおかみが姿がジョンの眼に飛び込んだ。

「おおかみだ」

ジョンは鉄砲をぶっぱなした。

おおかみは倒れた。

「あぶなかった」

ジョンは足でおおかみをひっくりかえして死んでいるのを確かめた。

「かわったおおかみだ。こいつにはきばがない。さあ  いこう」

「待ってくれ!」

ジャックは手探りでおおかみをさわった、おなかのあたりを。

「おまえだったのか  ゆるしてくれ  ゆるしてくれ」

「どうしたんだ?」

「こいつがおれを助けくれたんだ。」

ジャックは泣いた。

「そうか」

 

2人は森を去っていった。

森の動物たちが集まってきた。おおかみの死体のまわりに。

仲間にいれてやらなかったおおかみのまわりに。

子どもたちはゆすってみた。

けれどおおかみは動かなかった。

 

 

 

 

 

現代座がやっていた芝居です。小学校の先生が台本をかきました。ぼくは研究生の内部発表でおおかみをやりました。

 

 

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